Bloodly Rose Residence 突如轟く雷鳴。激しく降りだした雨はまるで何かを消し去ろうかとするかのようだった。 暗く深い森が続く。 その中を黒いマントをまとった一人の男がひたすら馬を走らせていた。 男は極度の疲労の為か度々意識が遠のき何度も落馬しそうになり、その度に馬は主人を心配するかのように嘶き、マントの男の意識を引き戻す。 「ありがとう、パックリアン。」マントの男は微笑んだ。 「パックリアン、あそこに屋敷が見える。一休みさせてもらおう。」 男はそう言うと、ふいに現れた古めかしい屋敷を目掛けて愛馬を走らせた。 重々しい石造りの橋を渡り、一枚板の大きな扉の前に立つ。 呼び鈴を鳴らそうとした瞬間、男に悪寒が走った。 誰かに、いや、何かに見られているような感覚。 男は辺りを見回した。しかし、何者もいない。 それにしてもこの屋敷の不気味さはどうだ。 趣があり、建物全体に見事な細工が施されており、古いながらも手入れが行き届いている。 しかしながら、この屋敷全体を取り巻く何か、暗い思念とでもいう物を感じてしまう。 男は雨の中、引き返そうかと思い始めた。 と、「ヒヒーンッ」突然愛馬が嘶いた。 「どうした?パックリアン。」男は愛馬を静めようとしたが、途端馬は全速力で駆けて行った。 「パックリアン!!」男は急いで追いかけようとしたが、深い霧の中に瞬く間に姿を消した。 この酷い雨で夜の帳を迎えた今、徒歩での移動はとても無理だ。 男は消えた愛馬に心を残しつつも、意を決して門を叩いた。 暫く、何の物音も気配もしなかった。 無人かと思い始めたころ、ゆっくりとその重々しい扉が開いた。 「申し訳ありませんが・・・。」男は出てきた人間に話し掛けて驚いた。 男を迎えたのは歳の頃は17〜8歳の黒髪の少年だった。 艶やかな黒髪、そして青白いしかし透き通った肌。唇は紅く、華奢な身体をしている。服装は立派でこの屋敷の子息と取れるようないでたちだった。 「あの・・・。」そう言い掛けて男ははっと息を飲んだ。 その眼の冷たい光に次の言葉を継げなくなったのだ。 しかし、次の瞬間少年はその冷たい光を収めると口元に笑みを浮かべた。 「道にでも迷われたのですか?」 「あ・・・はい。。馬も逃げてしまい・・。」 「そうですか。しかし、この屋敷にお迎えするわけにはいかないのです。」そう言うと扉を閉じようとする。 その時、 「兄さん、お客様?」小さな声が聞こえた。 「・・・サスケ。。」少年はその声に眉を顰めた。 男は声がした方を見た。 そこに居たのは先に出てきた少年とよく面立ちの似た12〜3歳の少年が立っていた。 よく似ている、しかし、似ていない。 先の少年は美しいさの中に冷たさが感じられるが、この弟と思われる少年はどうだ。 少年というよりまだ中性的な華奢な身体。白い肌は暗闇の中で真珠のように輝いており、少し紅の刺した頬、形の良い唇は瑞々しいチェリーのようで、そして眼は深い森の清んだ泉のように美しかった。 たちまち男はその眼の虜となった。 「あっ。。」思わず、その少年に引き寄せられるように歩を進めた。 途端、先の兄と思われる少年に遮られる。「サスケ、奥へ行っていろ。」 しかし、少年は兄の声が届いていなかった。 マントの男をじっと見詰めている。 美しい銀色の髪、筋の通った高い鼻梁、、意志の強さを物語るような口元、しなやかだが精悍な身体つき、そして切れ長の瞳は魅惑的な光に満ちており、優しさが溢れていた。 「貴方は・・・誰・・?」少年も男に近づきながら言った。 「俺の名はカカシ。君はサスケというの?」サスケをじっと見詰めながら聞いた。 「あ、、「お前は奥に行ってろ!!」今度は厳しく遮られた。 サスケはその兄の口調の厳しさにハッとなって、部屋に引き返して行った。 「あっ、、、。」そのサスケを見送るカカシの目にはもうサスケしか映っていなかった。 サスケも何度もカカシを振り返りながら奥に入って行った。 それを苦々しそうに見詰める少年。そしてふいにカカシに話し掛けた。「貴方はあの有名な騎士のカカシ卿ですか?」 カカシは急に現実に引き戻されたように目の前の少年を見た。「あ、、、ああ。有名かどうかは知らないけどね。」 「・・・そうですか。。」少年はしばし何かを考え込んでいるようだった。 が、突然顔を上げると言った。「私の名はイタチ。この“薔薇屋敷”の当主です。」 「“薔薇屋敷”・・・。」カカシは繰り返した。 「先程は失礼致しました。貴方の身分がわからなかったので、、。しかし貴方があの名高い騎士のカカシ卿だと解れば問題ありません。どうぞごゆるりとこの“薔薇屋敷”にご滞在ください。」優雅な態度でイタチは申し出た。 「お世話になって、、いいかな?」カカシはあのサスケのことを考えながらそう言った。 そんなカカシにイタチは一瞬冷たい視線を走らせた。 が、 「歓迎致します。」 美しい笑顔で言った。 カカシは下男に立派な客間へと案内された。 途中の廊下の装飾、造りそして調度の品質の高さには驚かされた。 余程の財力がなければ揃えることの出来ない品々だった。 しかし、この深い森の奥にこんな立派な屋敷を建てるのも腑に落ちない。かなり身分のある人間か大富豪の別荘なのか。 しかし、あの少年はまるで自分の屋敷のような振る舞いだった。きっと貴人が妾腹の子にでも建てた屋敷なのだろう。 ふいにあのサスケの顔を思い出した。 寂しげな表情は守ってやりたくなり、カカシは今すぐにでもサスケを抱き締めたい衝動にかられた。 「こちらから先には絶対に行かないで下さい。」 カカシが思惑に耽っているとふいに下男が話し掛けてきた。 「あ、ああ。。何かあるのですか?」カカシが聞くと「貴方には関係のないことです。」愛想の無い返事が返ってきた。 カカシはまた不思議に思った。 この広大な屋敷に人の気配は全く感じられない。 あの兄弟、イタチとあの愛らしいサスケ、そしてこの大男しかいないようだ。 しかもこの下男の風貌はどうだ!あの美しい兄弟とは対象的でまるで海原に住む鮫という怪物のような風貌だ。しかし、礼儀は弁えており、不快な感じではない。 いくつもの扉を過ぎた頃、やっとその下男が立ち止まった。「カカシ卿、貴方はこちらのお部屋をお使い下さい。」 案内された部屋は贅を尽くした部屋だった。 大の男が三人は眠れそうなベッド、床にはオリエンタルな香りのする絹の絨緞、そして精巧な細工が施してあるオークの家具・調度品。 見事なマイセンの花瓶には真っ赤な薔薇の花束が活けてあり、濃密な芳香を放っていた。 事前に用意されていたようなその部屋の様子にカカシはまた奇妙な気分になって聞いてみた。「どなたかここに滞在される予定だったのですか?」 「いいえ。何故ですか?」 「いえ、、、随分・・念入りに用意されていたので。。」 「貴方の為に大急ぎで準備致しました。」 「!?私がここに滞在させて頂くと決まってすぐにこちらに案内されて来たのに?」 「他の召使が整えました。」 「でも、、、「こちらがバス・ルームになっております。朝食の時間は8時です。何かご用の折にはこのベルの紐をお引き下さい。使用人の部屋に通じております。では、ごゆるりとお休みくださいませ。」 「あの、、「夜深くはお部屋から出られないことをお勧めします。」下男はそう言うと慇懃にお辞儀をして出て行った。聞きたいことをほとんど聞けずにカカシは部屋に取り残された。 薔薇の濃厚な香りにむせ返るようだった。 その夜、カカシはなかなか寝付けなかった。 酷い嵐の音で深い眠りが訪れず、浅い眠りの中でカカシは何度も夢を見た。 夢の中にはどれもあの少年、サスケが出て来た。 ある夢では、サスケは憂いを帯びた表情を浮かべて深い霧の向こうからカカシに何かを必死に訴えようとしている。 その表情があまりに切なくて、カカシはサスケを抱き締めようと近づこうとする。しかし、まるで足枷を嵌められたように足が重く思うように進まない。なんとかサスケに近づくと、途端にサスケはまた霧の向こうへ追いやられてしまう。 追っても追っても追いつけなかった。 またある夢では、艶やかな毛並みをして気品さえ感じられる黒猫がカカシをじっと見詰めている。 しかし抱こうと手を差し出すと、するりと逃げる。カカシは何故か必死になってその猫を追い掛ける。 段々とその猫がサスケに見えてきた。 「サスケ!!」そう叫ぶとその黒猫は一瞬サスケの姿になって掻き消えた。 そしてある夢では、サスケがジパングという東洋の島国の黒い絹を纏って、宝玉が散りばめられた立派な椅子に座るカカシの足元に畏まって跪いている。 そしてその白く華奢な手でカカシの足を恭しく取ると、その指を丹念に舐め始めた。 その不思議なそして芳醇な快感にカカシがサスケの濡羽のような黒髪を掴み上を向かせると、あのオニキスの瞳はなく深紅のルビーのような瞳だった。 カカシは夢の中で意識を手放した。 間近に落ちた雷の音で意識が戻った。 外の嵐はますます酷くなっていた。 目覚めたカカシはびっしょりと汗を掻き、呼吸が荒くなっていた。 思わず起き上がって辺りを伺う。 眠りに付く前となんら変わらない部屋。 一本だけ火が灯っている銀製の燭台も、見事な調度の数々も、そしてきつい薔薇の芳香も。 カカシは大きく息を吐くと仰向けになった。 途端、燭台の火が消えた。 何者かの気配を感じた。 見るとベッドの足元の方に黒い影が見えた。 カカシは全身の毛穴が一斉に開いたように感じた。 その黒い影は微動だにせず、じっとこちらを窺っているようだった。 どれ程の時が経っただろう。 何時間にも感じられたし、瞬きする位にも感じられた。 突然ゆるゆるとその影が動き始めた。足元からカカシの腰、そして胸元までゆっくりと移動してくる。 漆黒の闇の中、夜目が利くはずのカカシにも正体が見えない。 カカシは全身が金縛りにあったように動けず、心臓が早鐘のような打った。 と、閃光が部屋を部屋を照らした。 カカシは金縛りが解け、羽枕の下に忍ばせていた短剣をさっと取り出し構えた。 が、目を見開いて言った。 「・・・サスケ?」 雷鳴が轟いた。 カカシは短剣を構えたままもう一度呼んだ。 「サスケ。」 またもや閃光が走り、部屋中が一瞬白い光に包まれた。 白く光る世界の中でサスケが妖艶な笑みを浮かべていた。 あの先刻見たはにかんだような切ないような表情のあのサスケとは別人のような艶やかな微笑みだった。 カカシが目を凝らしてサスケを見ようとした瞬間、部屋は再び暗闇に包まれた。 「サスケ?」カカシは再度名を呼んだ。 が、サスケはそれには答えずゆっくりと這うように近づいて来た。 漆黒の闇の中でもその白い肌が見える距離迄近づいて来た。 「サ・・・。」名を呼ぼうとした瞬間、サスケの白魚のような手がカカシの胸元に伸びた。 「!?」 ゆっくりとカカシの夜着の釦を外していく。 カカシは身じろぎも出来ずに為されるがままで動けなかった。 冷やりとした感覚に思わず身震いした。 見るとサスケの華奢な手が素肌の上を滑るように動き、カカシの夜着を肌蹴させた。 「・・・あっ。」カカシから小さな喘ぎ声が漏れた。 サスケがその艶めいた紅い唇がカカシの乳首を含んでいた。 そのまま果実を味わうかのように舌先で敏感な飾りを転がした。そのサスケのベルベットのような舌の感触にカカシの身体は大きく跳ねた。 「サスケ!?」カカシはもう一度名を呼んだ。 が、サスケは愛撫を止めずに、ますます濃密な愛撫を繰り返した。 時には軽く噛み、その後を舌でねぶる。 カカシはその痺れるような感覚に耐え切れず、小さな呻き声を上げた。 「サスケ!!」 奔放な夜の生活を送ってきたカカシでさえも今迄感じたことのないような快感にたまらなくなって、思わずサスケの濡羽のような髪を掴んで上を向かせた。 瞬間、また閃光が走った。 その光の中でサスケはどんな貴人、いや聖者でさえも魂を奪われそうな妖艶な笑みを浮かべていた。 熟れた果実のような小さな唇は濡れて湿り気を帯び淫らな魅力を持ち、絹のような艶やかな黒髪は白磁の肌に張り付いて艶かしく、頬は薔薇色に上気して悩ましい、そして瞳は真っ赤な血を思わせるルビーのような妖しい輝きを放っていた。 カカシはその瞳に惹きこまれたかのようにサスケを見詰め、左手をその滑らかな頬に、右手でサスケの華奢な肩を引き寄せた。 カカシは崇高な物に触れるかのように恭しくその真珠のような肌に手を滑らした。 そして、柔らかい唇に触れた。 →next |